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by murkhasya-garva
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楽日

「楽日」(2003)
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ツァイ・ミンリャン監督特集が京都みなみ会館で開催しています。もう5月25日、今週の金曜日にも上映は終了してしまうのですが。是非見なければ。そう思っていたのに、「迷子」「Hole」はまんまと見逃してしまった…ハチャー!!



『ヴェネチア映画祭でのこの映画の上映は、ちょっとしたハプニングとして今も語り継がれている』とチラシは語ります。ラスト5分間にわたる無人の観客席を映すショットに観客が困惑したというのです。たしかに無人の観客席は、まるでここにいる私たち観客を映し出すような思いを抱かせます。

『何かの間違いではないか』
そんなはずはない。それまでの語り口を見ていれば分かることじゃないか。ぼくはこのショットからスタッフロールの間に、全てが流れ込んできたような感覚に襲われました。去り行く映画館への想い、そこここの出演者たちの存在、長い長いショット群の饒舌な沈黙。静かに、しかし確実に何かが見る者の心に染み込んでゆき、ラストショットを我が身に感じながら劇場を後にするのです。

ただ最期を待つ映画館をめぐる静かなショットは、なぜあれほど私たちにそれぞれ深い想いを抱かせるのでしょうか。そこには映画の「鏡」としての力が見えてきます。
観客はスクリーンをじっと見つめ、何らかの意味を見出そうとします。しかし本作は多くを語りません。普段はあんなに口うるさい映画が沈黙すると、私たちは逆に想像を凝らします。すると何も語らないはずのスクリーンは各個人の過去や気持ちを映し出し、とたんに饒舌になるのです。まさに映画は、私たちを映し出す「鏡」なのだと思います。

しかも本作は、年経た映画館を隅々まで映します。まばらに人のいる観客席、温もりを求める青年、館内の至る所を歩き回る人々、受付の女性がめぐる劇場の裏、あらゆる場所に映画館の記憶が染み付いているのです。この新鮮ながらもどこか懐かしい光景に、観客の人々は改めて監督の、そして自分自身の映画館への想いを確認することでしょう。

往年の名作が上映されるひと時、無人の映画館に思い出があふれます。丹念に選び取られた長いショット群は決して退屈なものなんかではありません。今まで私たちが感じてきた映画館への愛と、見過ごしてきたショットの積み重ねとしての映画の大切さを再認識させてくれる大切な瞬間なのです。

かつてない形で映し出された本作は、しかし私たちの映画体験の原風景でもあります。身震いするような感動ではなく、いつまでも胸に沁み込んで行くような幸福に、鳥肌を抑えることができません。
by murkhasya-garva | 2007-05-24 19:21