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by murkhasya-garva
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ピアニスト

「ピアニスト」(2001)
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ミヒャエル・ハネケ監督の有名作品。イザベル・ユペールとブノワ・マジメルは本作で主演女優賞と主演男優賞を受賞しました。それだけの迫力。おぞましいほどに生々しく演じきった2人は、それまでのハネケ作品の中でも随一のものです。



見た目も神経質そうな顔がとても似合う、主役のイザベル・ユペール。フランソワ・オゾンの作品「8人の女」でも気位の高い神経質な女を演じていましたが、本作の彼女はその10倍はキツい。エリカ(ユペール)は、優秀なピアノ教師という一面を持つ一方、人に言えないような、異常な秘密を隠しています。見ているだけで胸くそ悪くなる場面もいくつか。

彼女には表向きにも、理不尽で強情な性格があります。少しでも気に入らなければキツい態度を取る。周りの人々は、その態度を優秀であるがゆえの厳しさと思っている節があります。中でも、才能溢れる美しい青年、ワルター(ブノワ・マジメル)は彼女に惚れ込んでしまう。何度も彼女にアプローチし、とうとう彼女をものにしたかに見えたのですが…。

この作品にロマンチックなものやエンタテインメントを期待していたご婦人、殿方は、かなりダメージを食らったことでしょう。こんな映画を観る人の品性が疑われるだとか、文句を投げつけた方も少ないのではないでしょうか。ああ、そういえば「デーモンラヴァー」も相当に歪んだ世界観を見せつけ、多くの人々が文句を言っていたような…。

しかし、下品だとか悪趣味という言葉でくくるのは、上っ面をなでたようであまりに反射的です。しかもミヒャエル・ハネケという監督が描く作品、絶対に何かあると踏んで観ないとエライ目に会うのは当然です。
まず言えるのは、自分の欲望を抑えてきた女性が、ほぼ最悪なパターンで自分の歪みを見せていること。そして、監督はそれを真正面から描ききっています。

彼女の秘密は、実際は余りにも痛ましいものです。
自分が醜いと思い込み、ろくに男性との交際もできずに老いへ差しかかっていく。しかしそれを認めたがらず、自分がまだ若いのだと自身にも周囲(その「周囲」も身内だけ・・・)にも思い込ませようとする。やがて彼女の抑圧された欲望は現実離れした妄想を生み、自分に好意を寄せる男にその妄想の限りをぶちまけてしまうのです。

これが10代の少女ならば、思春期のなせる失敗、若気の至りと済ませられます。ですが、これは中年女性の話。いまだに思春期を越えていないエリカの迷走ぶりは、見ていて混乱すると同時に、痛々しくて仕方ありません。小さく醜かったといわれるシューベルトと自分を重ね合わせる彼女。ワルターにまでそんな自分の内面を「クソ袋」だと罵られ、変態扱いされるのも哀れとしかいえません。

ハネケ監督はワルターの台詞やテレビのワンシーンを使って、深読みする観客をも巻き込み、変態との境目にある哀れな女性を、ギリギリの境目で描ききります。それらのアイテムは、実はハッタリではなく“解釈の可能性”の一つなのかもしれませんが…
彼のファンをも上手い具合に裏切ってくれる素晴らしい作品です。ハネケの新たな世界へどっぷりと浸かれます。個人的にはぜひオススメ。
by murkhasya-garva | 2006-09-17 20:09 | 映画