休止中。


by murkhasya-garva
カレンダー
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31

アイズ・ワイド・シャット

「アイズ・ワイド・シャット」(1999)b0068787_0305557.jpg

最近みた「アイズ・ワイド・シャット」。ショックでした。キューブリックすげえ。本人はこれを晩年に駄作だと言ったそうですが、どう駄作なのか分かりません。とりあえずここでは思ったことを。






倦怠期を迎えるハーフォード夫妻は、ビル(トム・クルーズ)の患者のジーグラー氏のパーティに招待された。パーティでビルは魅惑的な女性たちに誘惑され、アリス(ニコール・キッドマン)はハンガリー人の紳士に誘惑される。その出来事を後に二人で話している際に、ふとしたことで浮気をめぐって口論になった。収まりきれない苛立ちを抱え、ビルはネイサンソンの主人の訃報を受けて外に出る。外で彼は旧友のニックと会う。旧交を暖めようと、彼はピアノ弾きのニックが出るパーティに出席を望む。しかしそのパーティでは、想像を絶する光景が待ち受けていた…

ハーフォードの周りでは、秘密のパーティに参加して以来不穏なことばかりが起きる。たいていそれは自身を没落させる欲望の代償をあらわすのだが、しかし伏線は伏線としての機能を果たさず、結果的な不安の予感としてのみ語られる。しかしこれは彼らにとっては決定的なことだ。夫婦間の問題が、自身を取り巻く社会を舞台に「他者」の存在となって立ちはだかる時、彼らの抱える夫婦間の問題がいかに根深いものであるかということを思い知らされることになる。
作品自体にはアンダーワールドとも言うべき世界が口を広げていて、そこには人々の肉欲を司る地下組織が存在する。このプロット自体はそこらの凡庸な作品にも散見され、いわばクリシェと堕するものだが、キューブリックは人間の本質に対して直面、対決など“自我機能の回復”という一見全うそうな言及を回避する。不安は不安としてしか存在しえず、その実体の見えない不気味さゆえに否応なく恐怖を掻き立てることを彼は知っている。そもそも自分が克服できるような個人的で小規模な問題ならコミットメントもできようが、「性の地下組織」は彼一人の力を持ってして到底手出しできるような存在ではない。この決して表に出してはならない部分(=地下組織)とは、原理的にも明るみに出すことが不可能な人間のナマの部分なのだ。キューブリックは、この如何ともしがたい秘密の部分を、驚くべきことに現実問題すなわち男女の性を通じた結婚観の問題に引き寄せる。象徴的なストーリーを通じて、彼は文明社会に生きる人間が抱える深遠を喝破しているのだ。

ハーフォードは、亀裂を生じると見られた妻のアリスと再び向き合い、自分が隠し持とうとしていた大きな秘密を打ち明ける。それは二人の一旦こわばった関係をカタルシスの瞬間でもあるのだが、しかしわれわれにとって最も衝撃的なのはアリスの口から出る言葉だ。
『夫婦の絆を確かめ合うために、今すぐしなければならない大事なことがあるわ』
『それは何だい』
『F**k』

「F**k」という言葉が今までの作品群でどれほどの意味合いを担って発せられたか知る由もないが、彼女のその言葉は今まで秘されてきた部分を明言するという意味で本当に暴露的であった。セックスではない。F**kだ。精神的象徴的な解決などあざ笑うかのように、最も卑俗な言葉で夫婦関係を言い表す。いや、一介の無力な人間の二人にとってはそうするしかなかったのだ。

個人間で、成人が直面する最も大きな他者との出会いのひとつは結婚である。そこに横たわる問題を、本質的な部分から見事に掬い取って見せたキューブリックの洞察力は、まさに見事というほかない。
[PR]
by murkhasya-garva | 2007-08-14 18:37 | 映画