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by murkhasya-garva
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エルミタージュ幻想

「エルミタージュ幻想」(2002)
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世界最大級の美を誇るエルミタージュ美術館を舞台に、ロシアの美と歴史を90分ワンカットという驚異的な手法によって映画化。京都みなみ会館の「ソクーロフ監督特集、もうひとつの太陽」で上映されました。DVD化されています。必ず眠気予防をしてご覧ください。


現代を生きるある男が、エルミタージュ美術館に迷い込む。フランスの外交官キュスティーヌに出会った彼は、館内で様々な出来事を目撃。やがて2人は無数の貴族や軍人がひしめく舞踏会を目の当たりにする。

ロシアソビエトの映画を観ると夢も見ずにはいられない、ましてや90分ワンカットという恐るべき作品なら…と朝からカフェインとニコチンをしっかり取って観てきました。しかも観客が眠くならないようにか、劇場内は暖房をわざわざオフに。観る体勢は完璧…なはずでしたが、隣のオッサンはイビキをかき始める。突っついたのにまた寝る。もう何も言うまい…。

エルミタージュの中で行き来するロシア時代の過去と現在。一人のある男の視点が人々の間をさまようように流れていきます。この「ある男」とは恐らくソクーロフ自身なのでしょう。彼は誰にも存在を気付かれず、19世紀の外交官と館内の旅を続けます。ひと時も瞬くことのない90分は、さながら彼の豪華な、あまりに豪華な白昼夢。いや、彼自身が幽霊のような存在なのか。

途切れることのない時間、そして徹底した一人称の視点は、まるで見えない何かに導かれているかのような印象を受けます。避けられない運命的なイベント、そう、私たちの見る夢のように。自由に時間を跳躍する彼には、歴史に直接触れることは出来ません。「もう手遅れだ」と言い、彼は、過ぎた歴史を鑑賞、または傍観するだけの存在なのです。

道連れの外交官は自由に館内を動き回ります。全身黒ずくめの彼―彼こそ幽霊か―は、逆に言いたい放題。ロシアを劇場のようだと例え、ヨーロッパの模倣と痛烈に批判する。エル・グレコを賞賛し、《使徒聖ペトロと聖パウロ》を前にした青年の浅薄な考えを問い詰める。対照的な存在の彼は、主人公の男を代弁する分身でもあるのでしょう。

それにしても何と豪華なことか。1000人にも近いスタッフ・キャストを動員したといわれる本作は、帝政ロシアの王室、巨大なダンスフロアを人で埋め尽くし、圧倒的な迫力で再現してみせます。私たち観客に、きらびやかな世界に、時代を超えて直に触れるという、得がたい経験を与えてくれるのです。

扉を開けるたびに広がる豊饒なイメージの世界。「私たちの運命とは永遠に生き、この海を永遠に航海することなのだ」というラストの男の呟きは、監督自身の決意の言葉であり、それを追体験した私たちにも向けられた言葉でもあります。映画鑑賞を続けるぼくには、とても共感できる台詞でした。
観ようによっては芸術作品との距離が限りなく近くなる作品だと思います。最高に美しい、これこそ「芸術作品」。
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by murkhasya-garva | 2006-11-19 15:34 | 映画