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by murkhasya-garva
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ドッグ・デイズ

「ドッグ・デイズ」(2001)
b0068787_2359969.jpg4月に東京のイメージフォーラムで予告編を目にしたときからずっと観たかった作品。流れる「Tango Chopin」(だろう)の物憂げな調べと、“超問題作”という言葉にものすごく惹かれました。同時に興味を引いた「ダック・シーズン」は見逃しましたが、これだけは絶対に外せなかった。シネ・ヌーヴォで10/19に鑑賞。


猛暑が続くウィーン郊外の住宅地。同居する元妻とその愛人と元夫、飼い犬を熱愛する頑固な老人、目的のないヒッチハイカー、年下の恋人から暴力を受ける女教師。人々の孤独と怒りが頂点に達したとき、何かが起こる。

いやもう、何と言ったらいいのだろう。
今までに観た作品の中でも、この作品は際立って異彩を放っている。問題作といわれる作品の多くは、残酷な描写、倫理コードにかかるような表現をその根拠に持つ場合が多い。ヘルツォークが絶賛した監督、ウルリヒ・ザイドルの手がけた作品は、そのどちらも確実に持っているが、持っていない。本作の描写全てがそういった表現を担っている、と言うべきだろうか。

ここに描写される一つ一つの光景は、通り一遍の問題表現よりもはるかに衝撃的であることを示しておきたい。想像してほしい。ごく普通の人々だと思っていた身近な人間が、豹変して狂気にも近い感情をむき出しにする光景を。ドキュメンタリーの方法論を用いて描写された光景は、フィクションだと高をくくって観るような者に、腹の底に響くような不快感を与えることだろう。

おおいぬ座のシリウスが天頂に輝く、一年中で最も暑い日々(ドッグ・デイズ)。彼らの繰り広げる行為は、気温と共にその狂気を増していく。いや、彼らはあくまで狂っていない。猛暑が人々の欲望を最高潮に押し上げた、という方が正確かもしれない。あまりに率直過ぎる欲望の表現。欲望は性と暴力にそのはけ口を求める。その光景があまりにあからさまでおぞましく醜いため、劇場内からはたびたび失笑が漏れた。

ドッグ・デイズにだけ、人々は欲望を露わにするのではない。猛暑は欲望の引き金に過ぎないのだ。実際、大雨が降ってから彼らの行き過ぎた行為は一旦沈静化するが、なおも彼らの生活はその後も当然のごとく続いてゆく。欲望は、燠火(おきび)のように人々の中に残り、いつしかまた激しく燃えることだろう。現代社会の本質的な何かの欠如が埋められない限り、彼らの狂気は連鎖的に続くのだ。

スクリーンに映える真っ青な空、人々の汗ばんで輝く肌。見ているだけでこちらも暑く感じるはずなのに、ラストで、突然底冷えするような寒々しさを感じた。人間の醜さを直視したこの作品は、同時に私たちの醜さをも指摘している。冷静な視点だからこそ、その映像からの言葉には説得力がこもる。
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by murkhasya-garva | 2006-10-19 23:58 | 映画