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by murkhasya-garva
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ニューヨーク・ドールズ

「ニューヨーク・ドールズ」(2005)
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「ノミ・ソング」「メタリカ」「ノー・ディレクション・ホーム」…ミュージシャンのドキュメンタリーは今まで何本もありました。最近の作品の中でも、今回はちょっと毛並みが違います。「事実は小説より奇なり」というか、小説のような完成度。物語としても通用する作品です。胸に響きます。


LA郊外、毎朝バスで職場に通勤する温和な中年男性。彼は70年代初頭を駆け抜けたグラムロックバンドのベーシスト、アーサー・“キラー”・ケイン。若くして名声を手に入れ、数年で解散し転落の一途をたどった。どん底の生活からモルモン教に救われ、バンドの再結成を願っていた彼には、30年ぶりにスポットライトを浴びる機会が与えられた・・・。

ドキュメンタリーとして出来過ぎている!そう言いたくなるほどの完成度。もしかしたらモルモン教の新手の勧誘かも、なんて考えるのは野暮というもの。まさに“ロックのおとぎ話”。キリスト教文化が浸透していない日本でも、この類の話は馴染みが深いのではないだろうか。

控えめで謙虚な初老の男性が、かつて名を響かせたロックバンドのメンバーだったと言う。ロックに詳しくもないぼくの目から見れば、彼の回想は単なる昔話でしかなかった。期待も、失望もない。ロックバンドに特有のエネルギッシュさを失ったような男に、何を期待しろと言うのか。

そんなことはお構いなしに、ニューヨーク・ドールズの歴史がフラッシュバックのように語られていく。遠大な歴史から生まれたグラムロックバンド、それまでお行儀の良かった退屈な演奏を蹴散らすように、彼らは現れた。たった3年で解散したとはいえ、彼らに影響を受けたバンドは少なくない。

中でも、ブームタウン・ラッツのボブ・ゲルドフが言い放った「70年代初頭はアホのヘヴィメタが幅を利かせ、クソのプログレがメインストリームにあった」という台詞は印象的だ。グラムロックと、短い期間しか活動できなかったニューヨーク・ドールズへの熱い思いがにじんでいる。

最も日の目を浴びることのなかったアーサー・ケインは、元メンバーたちの活躍にあせりと苛立ちを隠せない。音楽活動にも失敗し、酒に溺れ、窓から飛び降りた。そんなときに出会ったのが、モルモン教だという。「薬物なしでトリップした」感覚を覚え、以来神を信じて謙虚な生活を続けてきた彼に、ドールズ再結成の話が舞い込む。

元メンバーと会うこと、それは彼の性格を際だたせる。繊細で神経質、しかし誰よりもメンバーの再結成を望み、ケンカ別れしたシルヴェイン・シルヴェインとの再会を心から望む。とはいえ、彼の不遇の半生は何かを確実に蝕んでもいる。リハの際に泊まったホテルの窓際に立って「一生ここで暮らしたい」と言い、備え付けのマホガニーの棚をうらやむ。叶わなかった夢への痛みが、彼を今でも縛り続けているのだ。

再結成の実現を喜ぶ彼の控えめな笑顔が、たまらなく切ない。あまりにも繊細で、いとおしい。神に仕えた男の姿は、まるで身近にいる人間のように深い親近感を覚える。恵まれなかったとはいえ、友人といい、その運命といい、彼が不幸であったなどとだれが言えるだろうか。
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by murkhasya-garva | 2006-10-17 14:19 | 映画