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by murkhasya-garva
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真昼ノ星空

「真昼ノ星空」(2004)
b0068787_130574.jpg沖縄を舞台に映画を撮り続ける、中川陽介監督の作品。これまでに「青い魚」「Departure」が上映。このあと「Fire!」の公開が待たれます。沖縄の心象風景的な美しさを描き出すこの作品は、ぼくの心を溶かしていく。第一、タイトルから幻想的だとは思いませんか。



沖縄に身を潜めている、台湾人の殺し屋リャンソン(ワン・リーホン)。仕出し弁当屋で働く由起子(鈴木京香)。誰もいない昼間のスイミングプールで退屈そうに受付に座っているサヤ(香椎由宇)。いつもと変わらない毎日。まばゆい太陽の日射しの下で、3人の孤独は、緩やかに交差する。

幸福な瞬間に、出会った。
心の溶け込むような沖縄の情景。青空と緑と水の色と、それら全てをゆるやかに取り込んでゆく夕闇。この作品では、幻想的な沖縄の中で水草のように息づく人間の、ほんのわずかな関わりと孤独を描き出します。それにしても、ここまで独自の自然観を豊かに描き出せるのは、沖縄しかないのかも知れない。

いわゆる内地では、そうそうこんな表現はできないでしょう。登場人物の心情と、風土の情景がごく当然のようにつながる世界。登場人物は皆何らかの形で孤独を抱えています。しかし、普段はそれを特別なことだとも感じず、ただ静かにルーティンを日々こなすのです。虚空を見つめるような日々を。

そこに台湾人の父と日本人の母を持つリャンソンの存在が浮かび上がってきます。彼は自分の身の回りを取り巻く静かな時間を「孤独」と呼ばず、「自由」と表現します。心地よい空間、誰にも知られない秘密基地が彼の住処です。彼が他の人たちと違う感覚を持つのは、恐らく台湾の風土観から沖縄を感じる傾向があるからなのでしょう。あらゆる空間に灯りが照らされる台北では、全てが明瞭で、人々の関係もより生々しく、むしろどぎつささえ感じられます。
彼にとって沖縄は、そんな束縛から離れることのできる自由で魅力的な空間だったのでしょう。

台湾に生まれ、沖縄の生活を愛するリャンソンは孤独を抱える美しい女性に、日本人の母親の面影を見、初めての恋をします。それは母親への憧憬であると同時に、沖縄の情景への潜在的な憧れでもあります。しかし、彼は沖縄の持つ風土性に根付いているわけではありません。彼は自由を別の場所にも求めることができ、自分の憧れを別の形で追い続けることができるのです。

孤独の中を密やかに泳ぐ2人の女性は、リャンソンの存在に揺らめきます。孤独を受け入れ、人との関わりをあきらめたはずなのに、彼の存在が、過去の痛みをまた思い出させる…しかし、その哀しみも、沖縄の緩やかな空気に全て溶け込んでいくかのようです。

映画館を出たとき、秋口の空がより美しく見えました。監督の沖縄への愛情が、深く伝わってくる作品です。これも大好きな1本に入りました。俳優も美しいが、何より風景がとろけるほど美しい。
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by murkhasya-garva | 2006-10-09 01:31 | 映画