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by murkhasya-garva
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蟻の兵隊

「蟻の兵隊」(2006)
b0068787_1343735.jpg戦争問題を残留兵の視点からとらえたドキュメンタリー。早々に映画館に行ってチケットを買ったから良かったものの、観客は年輩の方が大半を占め、満員状態。しかし不思議なことに立ち見はいない。やはり立ち見まですると体にコタえるんでしょうか…
今回も色々書いてますが、いたって感傷的です。


80歳にして、この執念。奥村和一氏の青春時代を塗りつぶした中国での残留体験は、今なお根深く彼をとらえている。段々と曲がってゆく背を矯正具で直し、彼は国家に立ち向かい続ける。彼と共に国を訴え続ける老人たちの姿は、皆等しく自分の中に激しい怒りを宿しているように見えるのだ。既に、彼らは怒り、憎しみ、といった負の感情を支えに生きているのではないだろうか。だとしたら彼らの生涯は、あまりに苦しく、想像することすら恐ろしい。

池谷監督は、残留兵としての奥村氏の姿を撮り続ける。初めは監督の言葉のトーンのきつさに、どことなく思想的な偏りを予感した。確かに奥村氏を撮ることは、戦争責任や政治問題を指弾することに最終的につながっていく。しかし監督の視点は、時として残留兵としての記憶を宿した奥村氏の姿をも浮き彫りにする。売軍行為の被害者としての姿と同時に、中国人への加害者としての記憶を捨てられない氏。戦後の中国を生きた一兵卒の姿が、生々しく描きとられてゆく。

奥村氏は兵隊として過ごした山西省の地を懐かしくも感じる。当時の過酷な経験、そして過ちを体験したにも関わらずだ。若き日を過ごした大原の兵舎に念願の再訪を果たし、死んでいった仲間たちを想う。「もう行くよ。また来るからな」そう言い残して、光ある現実の世界へとまた足を運んでいく。国との戦いに、また身を投じていく。

山西省残留で「蟻の兵隊」となった彼らは、明らかに心身ともに傷つけられてきた。今、靖国問題が騒がしい中、奥村氏は靖国神社参拝をはっきりと拒む。「幸福な帰還兵」小野田寛郎氏の戦争肯定論に「戦争美化ですか」と噛み付く。たとえ同じ歴史であっても、体験したことには個人で歴然とした差があるのだ。様々な政治的思想がごった返す中、少数派としての奥村氏の言葉は、どれだけ人の耳に届くのだろう。

年月が経ち、残留の事実を知る人も減っていく。奥村氏はその数少ない人の証言を得るべく、自ら足を運ぶ。彼のまっすぐ遠くを見つめる横顔が、駅のホームなどで映される。怒りであれ、執念であれ、彼がどのような感情を内に秘めているのか知る由もない。しかしその凛とした横顔を見て、ぼくは深く胸を打たれ、涙が止まらなくなっていた。
哀れみでも、怒りでもない。
ただひたすら遠い戦いを続ける人の顔が、こんなにも美しいとは思わなかったのだ。
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by murkhasya-garva | 2006-09-29 13:44 | 映画