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by murkhasya-garva
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ゆれる

「ゆれる」(2006)
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こういう話題作を観にいくと、まだまだ夏休みは終わっていないなあ、と思わせるほどの人の入り。1ヶ月ほど上映してなお、ラスト2日で満席ってどんだけの人が観に来ているんだか。主演は若手俳優で人気の高いオダギリジョー、そして香川照之。ファンなら必見の一作。


写真家として活躍する猛の温厚な兄、稔が幼なじみの女性、智恵子をつり橋から突き落とした容疑で逮捕された。やがて裁判が始まり、実の意外な一面を見た猛は、思いもよらないことを法廷で口にする…

今まで観た中で、あまりに人間らしい人間たち。
こんなにも人物の姿が繊細に、そしてリアルに描写された作品があったでしょうか。監督の抜きん出た演出と、役者の情感あふれる演技。そのどちらが欠けても、この作品の素晴らしさは生まれないでしょう。
一見、登場人物たちは、従来の人間ドラマで描かれるような、典型的な人物像とは異なって映ります。しかし、彼らはまさに、今を生きる人々の生々しい姿だといっても差し支えありません。

また主役のオダギリジョー、香川照之が演じる兄弟は、一見してタイプが全く異なる存在ですが、2人の間にある距離感や温度は、まさに肉親のそれなのです。兄と弟の切っても切り離せない絆、何だか自分の弟を思い出してしまいます。

本作で世界観を支えるのは、言うまでもなく役者です。役者の演出、演技、存在感、それら全てがよい方向に向かっている。一番印象に残っているのは、つり橋の上で智恵子に邪険にされたときの、兄の表情。ここは、弟の猛を除く人間関係、そして事件の真相に大きくつながってくるシーンでもあります。このときのやりとりや、香川照之の恐ろしいほど迫真の演技がなければ本作の半分は成立しなかった…というのは言いすぎでしょうか。

地方都市の、微妙に湿っぽい人間の性質―上京した猛に対して、その思いは振り注ぐのですが―恐らく一言で言うと、「抑圧感」というものがとてもリアルに描写されているのです。この感覚がゆがんで、焦りや羨望、憎しみとなってお互いの居心地を悪くさせている。それらが引き起こす、心の「ゆれ」は、経験したことのある人には痛いほど突き刺さってくるのではないかと思います。

そして、「ゆれる」のは、裁判で問題になる事件の真相も同じ。兄の証言、猛の証言で「ゆれ」ます。同時に、猛の中で断片的に思い出される「あの時」の記憶も、一体どれが本当なのかと迷わせるほどに、さまざまに形を変えて現れます。まさに事件の姿は、人々の歪んだ記憶や、願望といった心の「ゆれる」さまを象徴していると言えるでしょう。

オダギリジョー、香川照之が素晴らしい演技を見せてくれます。新時代の“名作”級の作品がやっと現れました。本当に良い作品です。未見の方はすぐにでも。
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by murkhasya-garva | 2006-09-06 12:50 | 映画