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by murkhasya-garva
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乱れる

「乱れる」(1964)
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去る6月13日に「浮雲」と合わせて、同志社は寒梅館内ハーディーホールにて鑑賞。今回も高峰秀子の熱演が素晴らしい。日の都合でなかなか成瀬巳喜男特集を観にいけないのが残念です。



スーパーマーケットの進出により、近くの商店街は経営が苦しくなっていた。礼子(高峰秀子)の店も例外ではない。彼女は18年前に夫を戦争で亡くして以来、ずっとこの酒屋を切り盛りしてきた。しかし、一方では夫の姉妹が再婚を勧め、義弟(加山雄三)は仕事をやめてフーテン生活を続け…

「成瀬後期の代表傑作」と称されるこの作品、素人目にも思わず身を乗り出してしまうような描写が随所に現れています。女性がメインキャラの大半を占め、それぞれの素晴らしい演出の中でとりわけ輝いているのが主人公の礼子。前半のほのぼのとしたホームドラマの中にさえ、表情や仕草、そして間という形をとって細やかな心情描写が描かれているのです。

気ままな生活を送る義弟の幸司を心配し、世話をする礼子。それは「浮雲」で惚れた男を追い続ける女としての顔ではなく、身内を親身になって案じる姉の顔です。控えめながらもしっかりと家を支える姿が、短いシーンからでもはっきりとうかがわれます。
的確な台詞と雄弁な演出。ただ、戸のそばにそっと立つ――。そこらの映画だったら、たまらず何か台詞で埋めてしまいそうな場面。でもたったそれだけで彼女が何を言おうとするか分かるし、何を思っているのかも伝わるのです。別に言い過ぎでも妄想でもなく、本当にそう感じられます。

後半では、幸司に想いを伝えられ、千々に思い乱れる彼女の姿が映し出されます。今まで忘れていた女としての感情に戸惑い、普段と同じ態度を取ることができず思い悩む礼子。彼女の家を出るという決断、そして彼女の帰途に幸司がついてくることで物語は混迷を極めます。ここまでだったら、さんざん他のドラマで紋切り型のハッピーエンドを見ているのですが…。ここからが成瀬作品の醍醐味なのだと思います。

列車の中で視線を交しながら、徐々に近づいてゆく礼子と幸司。まるで心の距離をも近づけようとするかのようで、彼女のふとした表情にも情感が溢れています。
しかし、注目すべきはラストです。公開当時にも話題となったという結末には、驚きすぎて鳥肌が立ちました。考えてみれば、これは、成瀬監督がテーマに基づいて煮詰めた結果なのでしょう。まさにタイトルどおりのストーリー、登場人物にも容赦のないラスト。そして放り出された観客は、この作品は一体なんだったのか、というところまで立ち返って問いかねません。

しかし、ぜひとも観ておきたい作品です。この作品を下敷きに多くの映像作品が試みられたと思うのですが、類似作品で少なくともこれを超えるものに出会ったことがありません。恋愛映画としても素晴らしい出来。最近の話題作なんて目じゃない。
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by murkhasya-garva | 2006-06-21 22:48 | 映画