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by murkhasya-garva
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ヒストリー・オブ・バイオレンス

「ヒストリー・オブ・バイオレンス」(2005)
b0068787_23284433.jpg平穏で幸福な家庭を持つトム・ストール(ヴィゴ・モーテンセン)は、ある日ギャングに押し入られる。難なく彼らを撃退するトム。英雄と称えられる一方で、彼の家の周りでは怪しげな男たちがうろつき始める。一体トムは何を隠しているのか?彼の過去に何があったのか?


どんな作品であれ、シンプルに、抽象的になるほど象徴性を帯びてくるものです。そしてそれが優れた作品なら尚更です。映し出される残酷なまでに生々しい現実。映し出されないトム・ストールの過去。必要以上の演出を行わずに凄まじい迫力を持つこの作品は、観る者を圧倒することでしょう。

一見完璧な家庭を築くトム。そのドラマとしてふさわしくないほどの完璧さゆえに、トムの平凡な生活態度は不自然にさえ映ります。ある意味「張り詰めた」平和さは、何かが奥深く潜んでいるようにも錯覚させ、また彼らの行く末を暗示しているようにも思わせます。

あくまで全編を通して淡々とした描写にこだわるからこそ、かえって暴力シーンは際立ってきます。英雄/悪人というレッテルなしに緻密に描かれる暴力はあっけなく、しかし途轍もなく濃いインパクトを残すものです。血肉飛び散る光景に、思わず声を上げそうになる迫力があるのです。

一方でトムの過去は限られたエピソードが繰り返し「語られる」のみで、視聴者の想像に任せられます。このことは逆に作品が単なるフィクションに成り下がるのを防ぐだけでなく、リアリティの水準を維持するのに役立っているようです。このリアリティへの配慮は、トムや他の登場人物の行動を際立たせ、さらには深い象徴性を生み出す効果をも生み出しています。

実は、「まつさんの映画伝道師」の記事を先に読んでから観てしまい、そのイメージが先行しているのですが…少し頑張ってみます。つまりトム(最もありふれた名前)はアメリカ人そのものであり、彼は自分の血塗られた過去を消し去ろうと努力している、と。しかし彼の「暴力の系譜/歴史(history of violence)」は容易く消せるものではなく、過去の亡霊(出自)が彼の責任を追及しようとやってくる。トムの自らの禍根を断とうとする行為は、半ばエゴですらあります。

トムの家族は自分たちのアイデンティティを揺るがされ、進退を迫られます。彼の名はトム・ストール。ストール(stall)は「口実、ごまかし」の意とも読み取れます。しかし彼らは皮肉にも名を分かち合った家族。そんな彼らのとった行動は、果たして絆、恐怖、信用、無知、どれに基づくものだったのでしょうか。
また、トムの家族と懇意にしている保安官のサムを米国(Uncle Sam)とすれば、サムは何も知らずにトムを匿っていることから、サムの守る町(=国)が内部崩壊の危機すら孕むことになるともいえます。もちろん、禍根の種はすでに育ち始めているのですし…

でも、こんなに凶暴で強大な本性を隠しおおせるトムのパワーの底知れなさに少し憧れてしまいもします。ある種、そこから築かれた家族こそが最も強力なのかも知れません。
現実的すぎるファイトシーンもこの作品の見所ですが、圧倒的な説得力と様々な解釈を呼び起こす象徴性は賞賛に値します。一回は観てみるべし。
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by murkhasya-garva | 2006-05-03 23:33 | 映画