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by murkhasya-garva
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転がれ!たま子

「転がれ!たま子」(2005)
転がれ!たま子_b0068787_11583111.jpg
京極弥生座あらため新京極シネラリーベにて鑑賞。「鉄かぶと」が印象的で、一風変わった作品を期待していましたが、予想外の王道ストーリー。監督は新藤風。桜井たま子を演じるのは、映画初主演となる山田麻衣子。



桜井たま子は子供のときの経験がもとで、とても警戒心の強い子に育ってしまいました。自分の家から半径500メートル以内から出たことはありませんし、自分の部屋以外で愛用の鉄かぶとは外しません。また甘食が大好きで、甘食が彼女のすべて。そんなたま子の世界はいつまでも変わらない、そう信じていたのですが…

ここ最近の日本映画の進歩は目覚ましいものがあります。現代の感覚を鋭い視点から切り込んだり、あるいは映画技法の新境地を拓く作品があったり。新鮮さを新しいものに求めるのは結構なのですが、時には一息つくことも必要です。本作品は昔の映画を見ているような、温かい気持ちになれる逸品です。
そしてこの作品の一番の魅力は、一貫して主人公の成長をテーマに撮っている点にあるのです。

最近の作品の多くは、他の登場人物のちょっとした台詞や行動がストーリー転換のキーポイントになることなんてざらです。しかし本作品では彼らの行動は、たま子の世界を引き立てるための演出に徹しています。彼女がアクションをする限りでは豊かに反応しますが、決して予想外の混乱を引き起こすことはありません。「やれば出来る」「望めば叶う」。それは悪く言えばご都合主義ですが、いわゆる成長譚として、昔から連綿と続いてきた童話を現代社会に実現させているということなのです。

そのため現実感を多少とも失わせる演出はありますが、時にリアリスティックに表現し、時に思い切り寓話化してメルヘンにすることで不自然さを解消しているのは監督の手腕といっていいでしょう。一つの物語として、たま子の服装をあえて奇抜にしたり、また時代を感じさせない風景にし、季節を初秋あたりで固定したりしているのも見事です。

たま子を演じる山田麻衣子自身は、「たま子の心情になりきれない日は凹んだ」と言うくらいに演じこんでいるようです。前半は全くといっていいほど話しませんが、その分表情や仕草にとても感情がこもります。というかふくれっ面がたまらなく魅力的なんです。山田麻衣子の魅力を再確認する作品とも言えるでしょう。
現在アフタヌーンに連載中の「世界の孫」の主人公・甘水にも似ています。いい年こいて精神年齢は5,6歳児。手に負えないけど憎めない・・・

周りを固める俳優陣も相当な実力派です。たま子の父は竹中直人。彼はよく演技過剰だといわれますが、今回は慎重に抑えたのか繊細な心を持つ父を演じています。やっぱり彼はうまい。他の人たちも存在感の溢れるキャラばかりです。

観終わってから、後ろにいた青年が「何ともいえません」と言って連れを笑わせていました。確かに性質は王道っぽく、目新しさはそうありませんが、ここまで完璧に成長物語を描いた作品はあまり見当たりません。年齢を問わず確実に心温まる作品、そんなある意味サザエさんみたいな本作品は、傑作といっても過言ではありません。
by murkhasya-garva | 2006-04-29 12:01 | 映画