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by murkhasya-garva
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酔画仙

「酔画仙」
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2002年カンヌ国際映画祭で監督賞を受賞。
朝鮮の天才水墨画家の人生を描いた作品。壮大な自然を相手に絵を描くスンオプは、酒と女をたずさえて、ひたすら自分の画力を高め続ける。
炸裂する才能を味わうべし。



この作品も神戸のシネ・ピピアで催された「2005年映画傑作選」で観てきたもの。映画設備としては優れたものとはあまり言いにくい。しかし観客からのリクエストを随時受け付け、特集を組むというのはいいアイデア。ミニシアターならではの方法。

本作品の魅力は、天才画家チャン・スンオプの溢れんばかりの才能。奔放な生活を続け、自ら水墨画の修行に明け暮れる姿が、あまりに潔く、スケールが大きい。時折描かれる美しい絵が、作品の魅力の一つとなっている。絵画の価値がどれほどのものかは分からないけど、彼の絵が見事な演出で映し出されるたびに息を呑んでしまう。常人離れした能力で周りの人間をいやでも揺り動かす、ということに自分が憧れているからかもしれないが。

若い頃こそ先輩格の絵師たちに疎まれていたが、彼は年を経るごとに世に容れられるのである。晩年には「彼は国家の宝だ」と言われ特別な計らいを受けるまでに。彼が世の絵の流れを作るまでに。それこそが彼のただならぬ才能の力なのだ。

ではなぜ彼はそれまでに世に影響を与えるほどの存在となったのか。酒を飲み、女を抱き、放埓な人生を送ってきた彼が何故?それは、彼自身が絵に一生涯を捧げたからだろう。彼は自分の才能を信じて疑わず、常によい絵を描き続けようとする“求道”の姿勢を貫いた。

そして彼の一貫した姿勢は、意外な面でも現れている。口さがない先輩には目もくれないが、師匠と呼べる人間には必ず敬意を払うのだ。野良犬は己の本能に従って生きる、とは言いすぎだが外れてもいないだろう。真に良いものを求め続ける当然の結果かもしれない。
ラストも圧巻である。あれは彼の生き方を象徴した姿だ。

またスンオプの絵は大半が自然物である。彼のやっていることが茶番に見えるくらい、その対象物、つまり自然の存在が大きすぎるように思われることにも注目したい。彼が絵に真剣であるほど、自然は大きくなるのだ。彼が鳥の群れを冬空に見上げるシーンは、その一端を示すいい例だ。
同時に、監督の映し出す自然風景にもはっとさせられる。彼の風景の切り取り方は、一枚の絵画のようでもある。全体を通して映像の美しさへのこだわりを感じてみるのもいいかもしれない。

この作品が高い評価を受けるのは、映像の美しさだけではない。時代の変遷とともに変化するものを明瞭に示せている。つまり、当時主流の画法であり、スンオプの人生観であり、朝鮮の思想の変化なのだ。そういったものが彼の絵を通じて語られるのが、とても好ましく思われる。

スンオプを演じるのは「オールド・ボーイ」主演のチェ・ミンシク。彼は老け役が本当に良く似合う。老境に差し掛かった者の眼差しが印象的である。しかし、若いスンオプ役の少年が5年後に、彼になるというのはどうしても納得いかない。あれでは5年ではなく15年は経っているだろう。

ともかく。スンオプという「絵を描く獣」の壮大な人生を大自然とともに描かれるこの作品は、問題がある部分を差し引いても感動できるのではないだろうか。ここまで個人のパワーを正面から描いた、ある意味正直な作品は最近なかなかない。この際ナショナリズム云々は言いっこなしである。
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by murkhasya-garva | 2006-03-18 22:48 | 映画