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by murkhasya-garva
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ヴェラ・ドレイク

「ヴェラ・ドレイク」
b0068787_17113812.jpg兵庫県の宝塚シネ・ピピアで鑑賞してきました。ここでは「2005年映画傑作選」が先日まで催されており、数多くの素晴らしい映画が上映されました。他にも「酔画仙」「ベルリン・フィルと子供たち」を鑑賞。さすがに傑作選というだけあって、全部当たりの充実した時間でした。

ロンドンの労働者階級の人々が住む界隈に、ヴェラ・ドレイクは暮らしていた。体の調子が良くない人の面倒を見、貧しい青年を食卓に招く。周囲の人への思いやりを怠らない彼女は、家族から愛され、尊敬されていた。しかし、彼女にはまだ誰にも話していないことがあったのだ・・・
ヴェネチア国際映画祭金獅子賞・主演女優賞を受賞した作品。

以前、あらすじだけ読んで「秘密?」と何だか陳腐なサスペンスものを想像していたけれど、この作品は違いました。一種の社会問題を取り上げた、心を深くえぐる作品です。聖人的な主人公の体現する倫理観と、施行される厳格な法律。社会の格差に潜む悲劇が、静かに世に問われるのです。

この作品は俳優の演技がとても上手い。脚光を浴びるような身分とは正反対の、小さな街の名もなき労働者たち。ヴェラの周りにいる人々は特に、飾ることのない善良な人々の姿が印象的です。嫌味なところがなく、あまりに人間らしい彼らの思いにいつの間にか同調していきます。

また、ヴェラの家族に見られる一家団欒のシーンは、ある種の完成された幸せ、といったものを感じます。隣人のレジーを招き、食事をし、食後の一服を楽しむ・・・たったそれだけの光景にとても温もりがあるのです。慎ましい家庭の「完成された」幸せ。異なった社会に住む私たちにも、何とも心地よい気分が伝わります。

しかし、法律と倫理観のせめぎ合いにあったとき、人々の反応は少しずつ異なってきます。「法を犯した」という行為を許せない息子のシド。悲しみにくれる娘のエセル。いかなる時にもヴェラを愛する夫のスタン。いつも彼女とその家族を避けてきた、スタンの弟嫁のジョイス。

目を引いたのはシドの態度。どんなに家族が説得しても、母を許すことが出来ません。むしろ、法廷で裁かれる彼女に怒りを持っています。この態度の変わりようは何なのか。若さゆえの正義感が「犯罪者」というレッテルを貼られた者を拒んだのでしょう。しかし彼の生きる社会は、母が「人助け」のために自ら法を犯していた社会でもあるのです。そこで彼の態度は少々異質に映ってしまう。

つまり、法律という存在が社会を分化し切れていない様子が見えるのです。母体を危険に晒すという理由から中絶が禁止されたとはいえ、そこで課される処罰は法の成立以前にあった人々の倫理観さえも歪めてしまいます。人を愛する、助けるという行為が法に規制されるという何ともやるせない現実に、倫理と法とどちらが大切なのかと思わず考えさせられます。

しかも、貧しい者たちにとって一般の手続きではあまりに金が掛かりすぎるのです。そう見ると彼女の行為は責められるものではない。「聖人」と呼ばれるヴェラは、困っている人に手を差し伸べることは当然ですらありました。ただ、命を危険に晒してまで行うことが果たして本当に良いことなのか…と考えると、この問題はやにわに複雑なものとなります。

今回はその是非は置いておくとして、周りの人にとってヴェラの存在がどのように映っているのかもとても興味深いところです。裁判官は彼女を犯罪者として「配慮」したり、ジョイスは事件に関わらず終始ヴェラを避けていたり。ヴェラは、それだけ人によって見方が変わりえる人間であるのです。

人としての役割と、その是非を深く考えさせられる作品だと思います。彼女の、覚悟を決めたような、戸惑いを隠しきれないような悲痛な表情もあって、胸に迫るような悲しみがとても印象深いです。感動作、というより心が揺さぶられる作品、といって邦画いいかもしれません。ぜひオススメです。
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by murkhasya-garva | 2006-03-11 17:14 | 映画