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休止中。


by murkhasya-garva
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ジャーヘッド

「ジャーヘッド」
ジャーヘッド_b0068787_17365427.jpg時は湾岸戦争のまっただ中。若い兵士が次々とイランに投入される中、スオフォードも軍隊に入った。入隊したことを後悔するような環境。その異常さに浸かりながら、彼もまた兵士として蝕まれていくのだった…

戦争映画が少し前に流行ったことがあります。「プライベート・ライアン」「シン・レッド・ライン」など、戦闘シーンが生々しかったのが特に話題を呼びました。しかしこれらの作品は、戦争を題材にしたドラマであり、兵士のリアリティを求めるものとは一線を画すように思います。今回の作品と関連するものがあれば、スタンリー・キューブリック監督の「フルメタル・ジャケット」でしょうか。

「フルメタル~」ではベトナム戦争時の“異常な”環境が描かれます。兵士たちの次第に崩壊する人間性に焦点をあて、いわゆる戦争の狂気を痛烈に批判したものとなっています。そこには軍隊独自の特別な社会の存在が大きく、兵士たちが一般の人間とは異質な存在のように思えてくるのです。
しかし、「ジャーヘッド」は一人の元兵士の視点から戦争体験を回想しているため、心理状態の変化などがよりリアルで共感しやすい。兵士も一般的な人間と地続きの存在だ、という感覚が「フルメタル~」とは違うところでしょう。結果、異常で過酷な環境ながらも、どこか人間性やその温かみを感じる作品になっているような気がします。これは、風刺というよりも暴露という感じですね。

まず登場する兵士のキャラが皆違う。過去に影のある男、ものすごいアホ、インドア系の冴えない青年、愛妻家など、人間味溢れる人物ばかり。実際にこんなのがいてもおかしくない程度なのが、実話っぽさをより感じさせます。上官はひたすら厳しいのでは…と思っていたのに、結構「まあいいや」が口癖のユルい人だったのにも肩透かしをくらいました。
出動期間まで訓練があるとはいえ、けっこう自由度の高い生活。クリスマスパーティーを行ったり、休暇が与えられたりと意外でした。少し考えれば当然のことなんでしょうが。

それに序盤のエピソードで、お決まりとも言うべき“有名な”鬼軍曹のしごき。これは「フルメタル」のオマージュなんでしょうね。いちゃもん付けられても絶対に文句の言えない上下関係や暴力シーンで、呑気で軽快なハミングがBGMに流れるので思わず笑ってしまいます。ひどい経験も時が過ぎれば笑い話、ということでしょうか。あまりに理不尽すぎてギャグにしかならないということなんでしょうか。

とはいえ、彼らの軍隊生活は一般のそれとは明らかに違います。訓練に次ぐ訓練、死と隣り合わせの緊張感、一般社会からの隔絶、心の底に溜まる荒んだ思い。
休暇が与えられた日に見た悪夢が印象的でした。鏡に映る恋人の顔、吐いても吐いても止まらない砂。彼をむしばんだ軍隊生活の罪深さを垣間見てしまいます。

戦場に赴いてからは、死と隣り合わせの緊張はより高まります。生きるために必死にならざるを得ない状況で、スオフォードも段々とコワレていきます。残された人間性との葛藤が、ひりつくほどの息苦しさを覚えます。「死ぬな、死ぬな、死ぬな…」と銃弾の降り注ぐ中で走る光景や、爆撃中に1人立つシーンは衝撃的ですらあります。

人を人とも思わなくなる、というのはさすがに言い過ぎなのですが、戦争に臨む上での訓練なので兵士たちは銃を撃つこと、ひいては流血を望む程にテンションが上がっていきます。士気を揚げるために「地獄の黙示録」を皆で鑑賞です。驚くくらいに皆が昂奮するんです。
しかし、彼らが育んだ戦場の狂気は、知らないうちに周りの人間が「イカレてる」と思うほどに大きくなっています。戦場が自分の生きがいだと思い込むほど、戦争の存在、影響力は強大なのでしょう。むろん、それを分かって身を投じ、自分の存在意義を見出す者もいるようですが・・・。

兵士と、彼らを蝕む戦争という存在を新たな視点から描いたという点で、とても新鮮な印象を受ける映画でした。「ロード・オブ・ウォー」もですが、戦争映画として観るべき作品の一つです。
主役のジェイク・ギレンホールは最近評価の高い「ブロークバック・マウンテン」にも出演します。こっちも役者つながりで観ておきたいですね。
by murkhasya-garva | 2006-03-04 17:39 | 映画